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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)8467号 判決 1978年10月26日

原告 産高建設株式会社

被告 国

代理人 押切瞳 奥原満雄 ほか二名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金七五〇万円及びこれに対する昭和五二年一〇月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  神田税務署大蔵事務官渡辺慶悦は、昭和五〇年七月二八日、原告に対する国税滞納処分として、訴外高橋正三郎(以下「正三郎」という。)所有の別紙物件目録記載のブルドーザー一台(以下「本件ブルドーザー」という。)を、差押え、昭和五二年九月二日まで右差押を継続した。

2  右差押は、原告代表者が、本件ブルドーザーは正三郎の所有物であり、原告の所有に属するものではない旨申立てたにも拘らず、前記大蔵事務官渡辺が税務職員として払うべき注意を怠つたために、所有者を誤認してなされた違法なものである。

3  原告は、本件ブルドーザーを正三郎から賃借して建設業を営んでおり、右ブルドーザーの使用により一ヶ月金三〇万円の利益を得ていたが、前記差押により、昭和五〇年八月から同五二年八月までの二五ヶ月間、本件ブルドーザーの使用が不能となり、これを使用していたら得られたであろう利益金七五〇万円を得ることができず、右同額の損害を被つた。

4  よつて、原告は、被告に対し、前記大蔵事務官渡辺の過失による違法な差押により、原告が被つた損害金七五〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日たる昭和五二年一〇月七日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認めるが、同第2、3項の事実は否認する。

2  本件ブルドーザーは原告の営業用機材で、原告の肩書住所地(当時の表示、川口市上青木町五丁目四五〇番地)所在の営業所の庭に置かれ、外観上原告の占有下にあり、また、差押に際し、立会人である原告代表者もその所有権の帰属につき格別の異議を述べなかつたから、前記大蔵事務官渡辺が本件ブルドーザーを原告の所有に属するものと判断して差押えたことに過失はない。

3  また、前記大蔵事務官渡辺は、本件ブルドーザーの差押に当り、国税徴収法六〇条一項の規定に基づき、原告に対し、本件ブルドーザーの保管を命ずるとともに、同法六一条一項の規定に基づき本件ブルドーザーの使用収益を許可したから、原告主張の損害が発生する余地はない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因第1項の事実(本件差押がなされたこと)は当事者間に争いがない。

二  原告は、本件差押は所有者を誤認してなされたものである旨主張し、原告代表者尋問の結果中には、本件ブルドーザーは、原告代表者の亡父正三郎(昭和四九年七月七日死亡)の所有にかかるものであつたが、その死亡により母志んが所有するに至つた旨の供述があるが、他方、右原告代表者尋問の結果によれば、本件ブルドーザーは当時の時価一〇〇万円の価値を有するものであるとしながら、右正三郎の遺産分割協議書ではその対象物件とされていないというのであつて、右原告代表者尋問の結果はたやすく信用し難いし、他に原告の右主張を裏付けるに足りる証拠はない。

しかして、<証拠略>によれば、本件差押当時、原告は営業不振から登記簿上の本店所在地の事務所を閉鎖し、肩書住所地(旧表示川口市上青木町五丁目四五〇番地)の原告代表者の居宅を営業の本拠として細々と営業を継続していたこと、本件ブルドーザーは、右居宅を含む一画の屋敷内(原告代表者尋問の結果によれば約二メートルの高さの大谷石製の塀で囲繞されていることが認められる。)に存し、車両等を格納してある作業所様の建物にならぶ空地に置かれていたこと、本件ブルドーザーは雨ざらしの状態で、一見してかなり老朽化しており、差押に立会つた原告代表者もその差押に格別の異議を唱えず、かえつて無価値物であるからとしてその差押を慫慂するかの如き言辞があつたことが認められ、以上の認定に反する<証拠略>の結果は信用できないし、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

そうだとすると、本件ブルドーザーが原告の業種たる建設業の営業用財産として一般的なものであること、右に認定した本件ブルドーザーの占有状態、その老朽状態から新品の如く所有権留保の特約が付着している懸念もないこと、更には右認定の原告代表者の態度からして、本件差押に当つた神田税務署大蔵事務官渡辺慶悦が、本件ブルドーザーは原告が所有し、占有するものと判断し、原告に対する国税滞納処分として、これを差押えたことに過失はないというべきである。

三  なお、付言するに、<証拠略>によれば、前記大蔵事務官渡辺は、本件差押に当り、原告代表者に対し本件ブルドーザーの保管を命ずるとともに、併せて、国税徴収法六一条一項の規定に基づき、その使用収益を許可したことが認められる(この認定に反する原告代表者尋問の結果は信用しない。)から、差押による使用収益の禁止によつて損害を被つた旨の原告の主張は、この点においてすでにその前提を欠く失当なものであるといわなければならない。

四  よつて原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 落合威)

物件目録 <略>

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